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自分の商品やサービスの値段を決める権利を取り戻す方法

養豚・養鶏などの牧畜業や農業が苦境に立たされている現状を、生産者の立場から分かりやすく解説。自分の売りたい値段で商品やサービスを買ってくれる最上の買い手を見つける方法を紹介している。

最近(2009年)になって、養豚・養鶏などの牧畜業や、稲作などの農業を営む人の苦境がニュースになりつつあります。

肥料や飼料、あるいは灯油などの燃料は暴騰しているのに引き替え、肝心の作物や食肉の価格はろくに上がっていません。米価に至っては下がり続けています。

これでは耐えきれずに廃業する人が続出するのも無理はありません。どんな状況になっているのかについては、下記のブログ記事が分かりやすいかと。

日本農業新聞より『飼料高で生活崩壊』

たしかに、身の回りの食べ物などがジリジリ値上げしています。

しかし、ガソリン代はもうすぐ1リットル200円に突入しようかというご時世。肥料だって餌になるトウモロコ
だってジリジリとかいう生やさしい値上がりではありません。

つまり、消費者にとっては値上げでも生産者にとっては実質とんでもない値下げなのです。

しかし、ここで疑問が湧いてきます。

売れば売るほど赤字になるような価格で何で売るの? 牛乳1リットル200円では元が取れないというなら、1リットル250円なり300円なりで売ればいいじゃないか?

そうだよね、と言える方は幸いです。しかし現実には、「いくばくかの現金が入ってくる分だけ、赤字でも売れないよりはマシ」なのです。

そして、下記の本を見る限りでは、その辺の事情は戦前からちっとも変わっていないのです。

私の小売商道(相馬愛蔵/青空文庫)¥0-

この本から一節を引用します。この文の前には、当時のインドがいかに貧乏でイギリスに搾取されていたかが書いてあります。

然らば自分の国は如何と顧ると、なるほど日本は印度ほどのことはありません。が、甚だ似たところがあります。日本の生命とも云うべき生糸が千円以下でなければ売れない。

農家は繭を一貫三円か四円で売らなければならない現状でありますが、その繭を造るに五円五十銭もかかるのであります。それを三四円で売って居ては、養蚕する農家は年々借金が増すばかりであります。

然らば生産費にも当らない生糸の値を誰がつけたかというと、結局日本の生糸を需要する米国人等に売権を握られて、相場を左右されて居るがためであります。

つまり、農作物などを買い付ける流通業者が安い値段でしか買わないから、生産者が安い値段でしか売れないという図式です。

実際、スーパーマーケットやディスカウントストアに行くと信じられないような値段が付いた食料品が目玉商品として並んでいます。

そういう扱いを受けているのは無名メーカーの商品がほとんどですが、そういう商品を見るたびに
「値段を見たら、この商品を作っている人のプライドはズタズタになるだろうな」
と胸が痛みます。

胸が痛むだけでなく「ここまで安くて大丈夫か、ヲイ」という疑念も浮かぶのでまず買いませんが。

じゃあどうすればいいかと言えば、道は険しいものの、たった1つしかありません。再び上記の本から一節を引
用します。

これがもし日本の手に商権があって、外国からぜひ日本に「生糸を売ってくれ」と云って来れば、日本では「桑の原価が二円かかっているから、少しは利益を見て二円五十銭くらいで売ろう」というようになる。

こうなると日本の生糸も、今日より二三億円高く売れることになって、外国貿易の平均がとれるようになります。

要するにこちらから「買ってくれ」とお願いする立場から、向こうが「売ってくれ」とお願いしてくる立場にならないといけないという事です。

そのためにはこれしかないです。

自分の売りたい値段で商品やサービスを買ってくれる最上の買い手を自力で見付ける、もしくは教育する。

断じて楽ではありません。ホームページ・ブログ・メルマガ・SNSなどのネット媒体はもとより、マスコミに取り上げられるようにプレスリリースを配信したり、やるべき事は山盛りあります。

でも、自分で何とかできるかもしれないという希望を持てるというのは、それだけでも十分に幸せなんではないでしょうか? 少なくとも「いつ廃業するか」しか脳内に浮かばない状態よりも。

冒頭で紹介した記事を書いた「みやじ豚」の宮治さんという方が、2009年に「農家のこせがれネットワーク」というNPO法人を立ち上げられたので、設立決起集会に潜り込んできました。

農家のこせがれネットワーク設立決起集会in関西 開催しました~★

どんな事をやったのか、は上記の記事に書いてあるとおりですので省略します。ここではこの設立決起集会で印象に残った事を書く事にします。

農業を始めとした一次産業といえば、「3K産業(きつい・汚い・かっこ悪い)」だとは良く言われます。その上に「稼げない・臭い」を追加して「5K」とも。

でも、ホントにそうなの?

他の4つはともかくとしても「稼げない」のは国と農協の言うがままになっているせいではないの?

「減反しましょう」
「ブルーベリーを栽培しましょう」
「ゴーヤーを育てましょう」
などなどなど、みんな横並びで同じことをやっていたら儲かるわけがありません。しかも、農協やスーパーなどに「一山いくら」で卸すだけでは安く買い叩かれるに決まっています。

実際、あちこちのスーパーでは「野菜や肉などの特売」を毎日のようにやっています。農家や畜産家は売値よりもはるかに安い金額で買い叩かれているはずです。

これで儲かると思う方が間違っています。

ではどうすればいいかと言えば、昔も今も答えは1つしかありません。「自分で商品に適切な値段を付けて売る」これに尽きます。

昔はイザ知らず、今なら
「農場のそばに直売場を作って売る」
「自分で都市部に持って行って売る」
「ファーマーズマーケットに出品する」
「どこか他の業種に自分で卸売りをする」
「インターネットで通販をする」
「外国の金持ち向けに輸出する」
などの手があります。

始めるための敷居が高い物もありますが、それでも始めから不可能だと決め込んだら話になりません。こういった事も昔よりはやりやすくなっているはずです。

結局のところ、どんな業種でも「自分の商品を売る力」がないと「誰かに代理で売っていただく」しかありません。それではその代理人に利益をゴッソリ持って行かれます。売るのは大変なのですから当たり前です。

そもそも「この仕事は儲からないからオレの跡は継ぐな」と親が子供に向かって言うというのは異常事態です。別に無理やり継がせようとしなくてもいいですが、子供が「跡を継ぎたい」と言った時に素直に喜べるようにはなってほしいです。

「かっこよくて・感動があって・稼げる」3K産業として農業や畜産業が盛んになってほしいです。そして私はもっと美味い物をいっぱい食いたいです。

2008年7月14日商売の考え方

Posted by 新谷貴司